Overview
年末年始に 『Read Write Own』 を読んだのでその読書録です。
この書籍は a16z のクリプト関連のトップなのでポジショントークは含まれていますが、LLM が世間を賑わせている昨今にあってブロックチェーンの話はあまり追っていなかったので、ブロックチェーンが今必要とされている話がインターネットの歴史をなぞりながら解説されていて面白さはありました。投資家目線すぎるのでピンとこないというか未来過ぎる話もあったりして現実的じゃないなと思うところもあるにはありました。
私自身はこの書籍に書いてあることはほぼ夢物語みたいなものだと認識してますし、ブロックチェーン自体はまだまだ現実世界への適用は先のように思えつつ、「おもちゃみたいなもの」と日陰に追いやられていたものが急に世界を席巻するイノベージョンとなったりするのでそういう意味では概要や今ある世界のどこに課題があるのか?というのは知っていて損はないのかなと思って読んで良かった本ではありました。
読書 Note
ブロックチェーンとブロックチェーンネットワーク
大まかな理屈は頭に入っていつつも、ここが自分が今まで誤解していたポイントではあるんが、ブロックチェーンというのは状態遷移の記録(コンピューティングの記録)というだけなんですね。よく「分散台帳」というような表現をされるので、なんとなく DB 的なイメージをしていたんですが、確かに言われてみると、あるブロックから次のブロックに遷移する(その際に過去の記録はすべて記録されており検証されたものである)仕組みというのは、自分がスタートから間違っていた考えでした。
記録自体は世界のどこかのコンピューティングリソース上に残っており、どこからでも復元は可能であること(そういう意味は分散台帳という表現は正しい)、そして不正な状態遷移を記録しようとしても、遷移するには最終的にそのブロックチェーンに参加してるノードからの投票で決まる、というところから不正が起こりづらい(できないわけでなく過去のブロックすべての計算結果を改ざんして正しいチェーンにして見せれば可能ではあるが、コストが膨大で割に合わない)という仕組みというのは、改めて書かれてみると結構よくできた仕組みだなと思います。
同じネットワークに参加してるノードの投票で遷移の合意を取るというのは、DB 界隈の分散合意アルゴリズム (Raft とか)の話と通じるところがありました。
ただ、分散金融やブロックチェーンゲームにおいてブロックチェーンネットワーク上にアプリケーションというものを作れるというのは知ってるようでよくわかっていなかったポイントでした。ただ正直なところは自分がそれを作ったことがないので例えばイーサリアム上で動くアプリケーションを書く、というのはいまいちどういうものなのかわかっていません。
イメージとしては HTTP のプロトコルを前提にWebアプリケーションを書くみたいな感じなんでしょうか。OSI の参照モデルのアプリケーション層のひとつ下くらいのイメージをしました。こういうのは身近に詳しい方がいれば説明を聞いてみたいポイントです。
インターネット上における所有権
本書でほとんど書かれていたのは既存のインターネットの世界は大企業のネットワークの上に成り立っていて、その大企業のネットワークでは Idenitity は「借りてる」だけで所有していない、ということでした。 (ただ、ブロックチェーンになると「所有」の概念が現実になるということが書いてあってここはあまり良くわかりませんでした)
GAFA に代表される企業が運営してるソーシャルネットワークを利用してインターネットの世界を行き来しているときに使っている「アカウント」というのはこの企業に属したネットワーク上でのみ有効なアカウントであり、そのネットワーク上でしか使えず、かつその生殺与奪の権利を企業に渡してることに等しい(=真の意味で所有していない)ということらしいです。
あまり現在のインターネットにおいて「所有権」を意識したことはなかったので、こういう観点はなるほどな、と思わされました。
そしてこの企業ネットワーク同士には相互運用性がないので、X のアカウントで培った試算をインスタグラムでは使えない(1からアカウントを作り直しになる)という当たり前の事象に対してブロックチェーン同士の相互運用でアカウントの情報を引き継げるみたいなのは確かにそうなると嬉しいポイントかなと思いました。
企業ネットワーク上におけるアカウント(Identity) というのは企業ネットワークそのものの資産に計上されており、ユーザー本人にはその所有権がないので、企業ネットワークを移動する(別のサービスを利用する)ときには別のアカウントになる、というのは当たり前のようでインターネット上における所有を担保されていない、ということになるんですね。
ブロックチェーンで実現できるというのは正直わかりませんが、インターネット上における Identity のポータビリティというのはユーザーからすると個人としてはかなりほしい部類の仕組みだと思いました。SNS を使ってる範囲では特に気にもしませんが例えばゲームなどでは、あるゲームにおける自分の疑似人格(アバター)をカスタマイズした衣装なり武器なりを別のゲームでも利用したいとニーズは想像に難くありません。
同じレベル1だとしてもアバターを1から作り直すことない世界のゲームというのはちょっと体験してみたいなと思いした。(例えるならフォートナイトでこさえた衣装をPUBGでも使えるみたいは感じでしょうか)
企業ネットワークのテイクレート
企業ネットワークのテイクレート(手数料)は99%である、というのはあまりピンときませんでしたが、X を使っていようがインスタグラムを使っていようがその企業ネットワークに属していて様々な投稿という形でネットワークを盛り上げている(ネットワークの価値向上にコミットメントしてる)にも関わらず、企業からそのコミットメントに対してのインセンティブはほぼない、という観点を持ったことはありませんでした。当然のことだと思っていたので。
ただ、ブロックチェーンを基盤にする世界ではこのテイクレートは極めて低く抑えられると書いてあります。
企業ネットワークの不当なテイクレートの高さが保証されるのはその企業ネットワークを維持運営するためのコストはすべて企業が負担してるからであり、テイクレートが高いのはそのインセンティブとして妥当、という考えによるそうです。まぁこれも運営側にいる身としては当然と言えば当然かなと思うんですが、ブロックチェーンネットワーク上においてはそのネットワークへのコミットメント(投稿なのか、何かのアプリケーションを作ることなのか、色々ある)に応じてインセンティブが支払わる(トークンやストレージなどコミットメントに応じてネットワーク上での権利を付与するイメージ)ことで、維持運営コストを支払う価値がユーザー側にあるといいます。
またこうしたコミットメントによってネットワークの価値が高まればネットワーク効果によって新しいユーザーがまたこのネットワークに入ってくることで好循環が働くからとのことでした。まぁ確かにそういうこともあるか、、、とは思います。
ネットワーク維持へのコミットメントとインセンティブ
これを本書では企業ネットワークはテーマパークそのもの提供で、ブロックチェーンネットワークは都市開発の基盤提供と表現していました。
まぁまぁピンとくる表現で、確かにテーマパークにおいては提供されるものを利用するのみですが、都市開発と考えるとその都市に人が増えて盛り上がってほしいので自ら率先してコミットするようになる可能性はたしかにありますし、都市が盛り上がって価値が上がることはそのまま都市に住んでいる自分にいい影響として跳ね返ってきます。
日々使ってるプロダクトから搾取されているんですよ?という筆者の観点は確かに納得感はありつつ、とはいえブロックチェーンの世界ならこうだ!みたいなのはあまりに論理が飛躍し過ぎでは?と思うには思いました。